ただ、風のために。5 (2003/January)

遠い記憶
1999 [01(a,b,c) 02(a,b,c) 03(a,b,c) 04(a,b,c) 05(a,b,c) 06(a,b,c) 07(a,b,c) 08(a,b,c) 09(a,b,c) 10(a,b,c) 11(a,b,c) 12(a,b,c) ]
2000 [01(a,b,c) 02(a,b,c) 03(a,b,c) 04(a,b,c) 05(a,b,c) 06(a,b,c) 07(a,b,c) 08(a,b,c) 09(a,b,c) 10(a,b,c) 11(a,b,c) 12(a,b,c) ]
2001 [01(a,b,c) 02(a,b,c) 03(a,b,c) 04(a,b,c) 05(a,b,c) 06(a,b,c) 07(a,b,c) 08(a,b,c) 09(a,b,c) 10(a,b,c) 11(a,b,c) 12(a,b,c) ]
2002 [01(a,b,c) 02(a,b,c) 03(a,b,c) 04(a,b,c) 05(a,b,c) 06(a,b,c) 07(a,b,c) 08(a,b,c) 09(a,b,c) 10(a,b,c) 11(a,b,c) 12(a,b,c) ]
2003 [01(a,b,c) 02(a,b,c) 03(a,b,c) 04(a,b,c) 05(a,b,c) 06(a,b,c) 07(a,b,c) 08(a,b,c) 09(a,b,c) 10(a,b,c) 11(a,b,c) 12(a,b,c) ]

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2003/01/11 (Sat)

川端裕人『The S.O.U.P.』

読みました。今年最初の小説になります。

伝説的なRPG「S.O.U.P.」を作り、現在はセキュリティのコンサルを 営んでいる周防の元に、経産省サーバへのアタックに関する調査と 防御の依頼が舞い込む。奇妙なことに、その事件の背後には、 周防と共に「S.O.U.P.」を始めたかつての旧友の姿が見え隠れしていた――。

んー、細かいところの違和感は置いておいても、ちょっといまいちです。

ルータを叩いて経路障害を起こさせる攻撃は以前から 警告されていて、日本では「大手町アタック」(大手町には 大きなノードが集中しているため、大手町のいくつかに 物理攻撃を仕掛けて日本のIP網を分断させる、という攻撃) なんていう言葉もあったりしました(今はどうなんでしたっけ?)。 でも、こういう形で小説の中に出してくるのはまだあまり 例がないでしょう。そういう意味では興味深いです。

が、問題はその描き方です。

インターネットに大規模な攻撃が行われた時、最も重要な立場に いるのは誰でしょうか? 言うまでもなく、ネットで起きる様々な 障害と日々闘っているネットワーク管理者たちと、 ネットワーク設計者たち(という言葉は聞かないですが、 ネットの研究者とネットの構築を行うエンジニアの集合のこと だと思ってください)です。 Webサーバへの侵入とかならともかく、大規模経路障害を 引き起こすような攻撃であれば、その筋の人々が上へ下への 大騒ぎをはじめ、混乱の中、協力し合って解決の道を探ることに なるでしょう。事実、1989年に起きたmorrisワーム事件では、 「OBネットワーク(old boy network)」が活躍したことが 知られています(cf. RFC1135(山根さんによる日本語部分訳))。

ところがこの小説では、彼らの存在が微塵にも感じられません。 まともに出てくる「管理者」の振舞いは、主人公が自宅に置いている 自分用Webサーバをクラックされてその対処をする(といっても結局 物理的にネットから切り離すだけ……)くらいです。これはさすがに まずいでしょう。

そしてまた、この小説の中で描かれる(「コード書き」としての) 「ハッカー」の描かれ方も不満です。 この物語に出てくる「ハッカー」は、なぜか全然コードを書かない んですよ。過去に書いたとか、「コードを書いた。」という言葉だけが 地の文として出てくるだけで、コードを書くシーンそのものが ぜんぜんありません。みんな口先ばかりに見えます。

いや、別にコードそのものは書かなくてもいいです。実際、 コードを書かないハッカーだってたくさんいますから(彼らは アプリケーションやOSを導入・設定をしたり、プログラムを走らせて 性能評価をしたり、天井裏や床下にもぐりこんでLANケーブルを ひきずり回していたりする)。が、ふつうはコードのことが頭の片隅に あるはずです。アプリケーションやライブラリやOSを見て、 それらがどのような原理に基づき、どのような実装が行われて いるかを見ています。さらに腕の立つ人なら、それを実装した人が どのようなスキルや趣味趣向を持っているかまでもわかってしまうかも しれません。

そう、この物語に欠けているのはこの視点です。ネットワークを コードの集合体として、コードを人間の営みの集積として見る視点です。 プログラムは裏庭に生えているわけでもないですし、 マシンの管理は緑色の小人さんがしてくれるわけでもありません。 みんな、人間が書き、人間が運用しているものです。 こういった裏方の仕事は、 ネットワークにユーザとしてしか関わったことのない人には 見えにくいかもしれませんが、ネットワークはユーザだけでは 成立しません。それを支えるひとたちがいるからこそ、 ネットワークは維持されているのです。

このような読み方は、私の好みを色濃く反映しているものではありますが、 物語的な要請でもあるはずです。サーバの障害が起こっている ネットRPGで、仮想練馬から仮想鎌倉まで歩いていくような話(謎) ならユーザの視点だけでも構わないかもしれませんが、 ネットの自治をめぐって大規模な攻防を行う話を描くなら、 相応の視点が欠かせません。インターネットを インターネットらしく見せるには、そういった工夫が必要でしょう。 そういったところが気になって、 あんまり物語に入りこめませんでした(あと、最後はちょっと 安易じゃないかと思うのですが、それはまた別の話)。

……と、いろいろ書いてしまいましたが、 それでも『竜とわれらの時代』は読む予定です。


2003/01/16 (Thu)

哀悼

以前greenteaさんのところで取り上げられていた Linux Magazine2月号の「プログラミング工房」、読みました。 普通の連載記事なのですが、 以前からバックアップに関する啓蒙記事も書いてきた筆者が、 自宅全焼、父親死亡、という事故に会い、今までのバックアップに 対する考え方は不充分であった、と厳しく反省しながら、 何をどう残すべきなのかを冷静に語っています。

バックアップについて、これほど痛切に語られた文章を読んだことは ありませんでした。こういうタイミングでよくこれほどの 文章が書けたものだと思いましたが、逆にこのタイミング以外には 書くことができなかったのでしょう。

Linuxにもプログラミングにも興味のない方でも、電子的な データを持っているすべての人は一度読まれることを勧めます。

UTF-8と31bit文字空間の終焉

ietf-charset MLでは、現在UTF-8に関するRFCの更新作業が 行われています。その中で、UTF-8は4バイトが上限であって (つまりUTF-16と互換な範囲のみ)、 5バイトや6バイトのUTF-8は事実上廃止されることが 明記されそうです。ISO/IEC 10646:2003でも、 同様のことがNOTEとして 記載されるそうです

電子的に処理するべき「文字」は、 100万文字程度しか存在しない(しかもUniversalに)、 ということですね(合成文字は除く)。いや、私たちが 合意可能・処理可能な「文字」、というべきかも。


2003/01/19 (Sun)

移転

「謎宮会」移転させました。 更新が遅くなりまして本当にごめんなさい(_o_)


2003/01/20 (Mon)

Rubyの正規表現

有里さんのサーチ用フィルタ(nDiary用)ですが、 Regexp::compile()はRegexp::new()と同じ意味で、引数に 正規表現を指定する場合はその正規表現のコピーを生成する ものです(ただしオプションは引き継がれない)。なので、 そのスクリプトの正規表現は「GOOGLE_SRCH = /Google\(([^\)]+)\)/」と 正規表現リテラルをそのまま書いたほうがいいと思います (余計な[]も省いてみました)。

nDiaryと警告

nDiaryのプラグインはトップレベルでplugを何度も 再定義するため、Rubyに-wオプションをつけると 警告が出たりします。これってどう回避すれば いいんでしょうかね?





written by TAKAHASHI 'Maki' Masayoshi (maki@rubycolor.org)
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